大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)474号 判決
原告
岩崎嘉一
被告
株式会社帝産キヤブ大阪
ほか二名
主文
一 被告らは、各自原告に対し金七七九、一一五円およびうち金七〇九、一一五円に対する昭和四七年五月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを七分し、その四を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告らは、各自原告に対し金一、九一八、六三八円および金一、七一八、六三八円に対する昭和四七年五月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一 事故の発生
原告は、つぎの交通事故により傷害を被つた。
1 日時 昭和四六年一〇月二〇日午前一時三〇分ころ
2 場所 大阪市天王寺区逢坂上之町一二二番地先路上
3 加害車 普通乗用自動車(泉五五う一七五四号)
運転者 被告二渡
4 被害者 加害車に同乗中の原告
5 態様 加害車が先行車を追越すため道路中央線をこえて進行したところ、右追越しの直後、ガス工事のため道路を掘りかえしてあつた工事現場に突入した。
二 責任原因
1 被告帝産キヤブ
(一) 運行供用者責任(自賠法三条)
被告帝産キヤブは、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた。
(二) 使用者責任(民法七一五条一項)
被告帝産キヤブは、その営む事業のため、被告二渡を雇用し、同被告が被告帝産キヤブの業務の執行とし加害車を運行中、つぎの2記載の過失により本件事故を発生させた。
2 被告二渡
(一) 一般不法行為責任(民法七〇九条)
被告二渡は、加害車を運転中、前方に対する注視を怠つた過失により、本件事故を発生させた。
3 被告浪速施設
(一) 使用者責任(民法七一五条一項)
被告浪速施設は、その営む事業のため、訴外岡西哲を雇用していたものであるところ、同人は、車道上において、ガス工事のため道路を掘りかえす等の作業をなす場合は、本件事故現場は車両の交通量の多い場所であるから、工事標識を設置し、かつ交通整理員を配置する等して事故の発生を防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と右作業に従事した過失により、本件事故を発生させた。
三 損害
1 傷害、治療経過等
(一) 傷害
頸椎捻挫、腰椎捻挫、上口唇粘膜部挫創
(二) 治療経過
昭和四六年一〇月二三日から昭和四七年一月三一日まで一〇一日間アエバ外科病院に入院し、その後三カ月間同病院に通院して治療を受けた。
(三) 後遺症
後遺障害等級一四級該当
2 損害額
(1) 入院雑費 三〇、三〇〇円
前記一〇一日間の入院に伴う雑費として、一日三〇〇円の割合による右金額を要した。
(2) 入院付添費 一二一、二〇〇円
前記入院中の昭和四六年一〇月二三日から昭和四七年一月三一日までの一〇一日間付添看護を必要とし、一日一、二〇〇円の割合による右金額の付添看護費用相当損害を被つた。
(3) 休業損害 六九六、二八六円
原告は、事故当時訴外大林組に雇用されて起重機補修の業務に従事し、一カ月平均一〇八、二三三円の収入を得ていたが、前記受傷により、昭和四六年一〇月二〇日から昭和四七年四月三〇日まで一九三日間休業を余儀なくされ、その間次の計算のとおり合計六九六、二八六円の収入を失つた。
108,233円×193/30=696,286円
(4) 後遺障害による逸失利益 一二〇、八五二円
原告は、前記後遺障害のため、その労働能力を五パーセント喪失するに至つたが、それは、昭和四七年五月一日から向う二年間継続し、その間右労働能力喪失率に応じた減収を招くものと考えられるから、この逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一二〇、八五二円となる。
(5) 慰藉料 七五〇、〇〇〇円
(6) 弁護士費用 二〇〇、〇〇〇円
四 結論
よつて、原告は、被告らに対し本件事故に基づく損害の賠償として、金一、九一八、六三八円およびうち弁護士費用を除く金一、七一八、六三八円に対するもつとも遅い本件訴状送達の翌日である昭和四七年五月一二日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三請求原因に対する被告らの答弁
一 被告帝産キヤブ、同二渡
1 請求原因1項の事実は認める。
2 請求原因2項1 2の事実は争う。本件事故は、被告浪速施設の道路管理上の不注意により発生したものであつて、本件事故の発生について被告二渡には、何ら過失はない。すなわち、本件事故現場においては、事故当時、被告浪速施設がガス管の埋没作業中で、道路ほぼ中央部に深さ三〇ないし三五センチメートル、縦横約一五〇センチメートルのくぼみができていたが、本件事故現場は被告二渡の進行方向からみてゆるい上り坂になつており、同被告にとつて右くぼみの発見は著しく困難ないし全く不可能の状況にあり、事故の発生を未然に防止するためには、被告浪速施設において赤色灯、黄色灯、バリケード等を設置して注意を喚起するか、あるいは保安要員を配置する等の措置をとるべきであつたのにこれを怠つたものである。
3 請求原因三項の事実は争う。
二 被告浪速施設
1 請求原因一項1ないし4の事実は認めるが、5の事実は不知。
2 請求原因二項3の事実は、被告浪速施設が訴外岡西哲を雇用していたことは認めるが、その余の事実は争う。本件事故は、被告二渡の前方不注視の過失により発生したものであり、本件事故現場のくぼみは原告主張のようなものではなく、自動車の進行に支障を来すようなものではなかつた。
3 請求原因三項の事実は争う。
第四被告帝産キヤブの抗弁
本件事故は、前記第三の一2記載のとおり、被告浪速施設の道路管理上の一方的過失によつて発生したものであり、被告二渡には何ら過失がなく、また加害車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたから、被告帝産キヤブには損害賠償責任がない。
第五被告帝産キヤブの抗弁に対する原告の答弁
被告帝産キヤブ主張の免責の抗弁は争う。
第六証拠関係〔略〕
理由
一 事故の発生
請求原因一項の事実は、被告帝産キヤブ、同二渡との間では当事者間に争いがなく、被告浪速施設との間では1ないし4の事実は当事者間に争いがなく、5の事故態様については、後記二において認定のとおりである。
二 責任原因
1 被告帝産キヤブ
〔証拠略〕によると、被告帝産キヤブは、加害車を所有し、その旅客運送業のため運行の用に供していたことが認められるから、同被告は、その余の責任原因について判断するまでもなく、自賠法三条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
2 被告二渡
前記二認定のとおり、本件事故の発生については被告二渡にも過失が認められるから、同被告は、民法七〇九条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
3 被告浪速施設
前記二認定の事実によると、本件事故は被告浪速施設の従業員がその業務の執行中その過失により発生させたものであると認められるから、同被告は、民法七一五条一項により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
三 本件事故発生の状況
〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。
1 本件事故現場は、幅員一五・五メートルの車道(片側二車線)の両側に幅三・二メートルの歩道のある東西に通じる道路(以下、本件道路という)上で、付近は市街地であつて道路はアスフアルト舗装がなされており、車両の交通量は多く、制限速度は時速四〇キロメートルであり、夜間の明暗はやや明るく、西から東へ向けてやや上り坂となつている。
2 被告浪速施設は、事故前日の午後八時三〇分ごろから当日の午前零時三〇分ごろまでの間事故現場でガス管の修理工事をなしたのであるが(現場の責任者はその従業員である訴外山田であつた。)、その際地下一メートル程度の深さまで掘り、その後は土を埋めてさらにその上には川砂を敷いておいた。そして、その上にアスフアルト舗装をするのは訴外奥村組の担当になつていたので、被告浪速施設はその従業員一名を現場に残して引き上げたが、右奥村組の現場への到着が遅かつたので右の職員も現場から帰宅した。なお、右の工事あとにはそのことを標示するための標識等は一切設置しなかつた。ところが、その後車両の通行により、右工事のあと土砂を埋めた部分に、深さ約三〇センチメートル、縦横約二メートルのくぼみとその約二メートル東側に深さ約二〇センチメートル、縦横約二メートルの同様のくぼみができた(いずれもその北端は車道の北端から約二・五メートルの地点)。右のように工事あとであつて土砂を埋めてある状況は、右の西側のくぼみから西方約三五・七メートルの地点から認められるが、くぼみのできている状況はその西方約八・三メートルの地点まで接近しないと解り難い状況にあつた。
3 被告二渡は、加害車を運転して本件道路の東行車線のうち北側の車線を西から東へ向け時速五〇キロメートルで進行中、前方約一二・九メートルの地点に前記工事あとの土砂を認めたので軽くブレーキを踏んだところ、前記二個のくぼみに落ちて通過した。
以上の事実が認められ、被告二渡本人尋問のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしたやすく採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定事実によると、本件事故現場は車両の交通量が多く、前記の工事あとをそのまま放置すれば車両の通行によりくぼみのできることは当然予想されるのであるから、前記工事に従事した被告浪速施設の従業員としては、前記工事あとの存在を標示する標識等を設置する等の注意義務があるのにこれを怠つた過失により、本件事故を発生させたものと認めるのが相当である。
さらに、右認定事実によると、本件事故の発生については、被告二渡にも制限速度を約一〇キロメートルこえる速度で、前方に対する注視を怠つて進行した過失(前方に対する注視を十分になしておれば、約三五・七メートル手前で工事あとであることが認識できそれに対する回避措置もとり得たはずである。)があるものと認めるのが相当である。
四 損害
1 傷害、治療経過等
〔証拠略〕によると、原告は、本件事故により、頸椎捻挫、腰椎捻挫、上口唇粘膜挫創の傷害を受け、事故直後病院で治療を受け、昭和四六年一〇月二二日大和中央病院に入院し、同月二三日から昭和四七年一月三一日まで一〇一日間アエバ外科病院に入院して治療を受けたが、退院後は通院治療を受けていないことが認められる。
なお、原告主張の後遺障害については、原告本人尋問の結果以外にはこれを認めるに足る証拠はなく、右本人尋問の結果はたやすく採用できない。
2 損害額
(一) 入院雑費 三〇、三〇〇円
原告が前認定入院中その主張の一〇一日間の入院に伴う雑費として、一日三〇〇円の割合による合計三〇、三〇〇円を要したことは経験則上これを認めることができる。
(二) 入院付添費
〔証拠略〕によると、原告の前認定入院中原告の妻が付添つたことが認められるけれども、前記四1認定の傷害の部位・程度等からすると、原告の前認定入院に付添看護を必要としたとは認め難い。
(三) 休業損害 三七八、八一五円
〔証拠略〕によると、原告は、本件事故当時二四才で、原告の妻の父の営む大村組で修理工として起重機の補修等の業務に従事し、一カ月平均一〇八、二三三円の収入を得ていたが、前認定受傷により、昭和四六年一〇月二〇日から昭和四七年二月二日まで休業し、同月三日から稼働をはじめたものの昭和四八年一月に転職するまで三日に一日程度の割合で休業を重ねていたことが認められる。
ところで、原告の休業期間について検討するに、前認定の原告の傷害の部位・程度、治療の経過・期間、病状の推移、原告の従事していた職業の種類・内容、原告の年令等を合せ考えると、原告は、昭和四六年一〇月二〇日から昭和四七年二月二日ごろまでの三・五カ月間の休業は止むを得なかつたものと認められるが、同月三日ごろから以後は、その稼働によつてある程度の苦痛を伴つたとしても平常の稼働が可能であつたものと認めるのが相当である。したがつて、原告の本件事故による休業損害は、一カ月一〇八、二三三円の割合による三・五カ月分合計三七八、八一五円となる。
(四) 後遺障害による逸失利益
原告に後遺障害の残つたことを認めるに足りないことは前記四1認定のとおりであるから、原告に後遺障害の残つたことを前提とする原告の逸失利益の主張は理由がない。
(五) 慰藉料 三〇〇、〇〇〇円
本件事故の態様、原告の傷害の部位・程度、治療の経過・期間、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は三〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。
(六) 弁護士費用 七〇、〇〇〇円
本件事案の内容、審理経過、本訴請求額および認容額等に照らすと、原告が被告らに対し賠償を求め得る弁護士費用の額は、七〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。
五 結論
よつて、被告らは、各自連帯して原告に対し金七七九、一一五円およびうち弁護士費用を除く金七〇九、一一五円に対するもつとも遅い本件訴状送達の翌日であることが記録上明白な昭和四七年五月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告の本訴請求は、右の限度で正当であるから、これを認容し、その余の請求は、理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 新崎長政)